映画雑感『ボーダーライン』☆☆☆☆☆ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、愛してます。

原題:Sicario
情報:121分、2016
鑑賞時期:2020年5月
視聴環境:On demand
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演 エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン

『灼熱の魂』(原題:Incendies)という映画がある。今まで観た映画(さほど多くはないけれど1000本くらいは観てるんじゃないかな)で、もっとも好きな映画である。それも圧倒的に。この映画について、僕は簡単には書けない。かつて加入していたケーブルTVでたまたま観たのだけど、ストーリーも映像も、「すごい」の一言。宗教対立の背景がよくわからなかったから、1度目はストーリーを完全に追えたわけでないのだけれど、それでもまずヒューマンドラマとしてすごいのである。こんな話をまずミステリー仕立てで開始して、視聴者をぐいっと惹きつける技もうまいなと思う。

とまあ『灼熱の魂』の話はこれくらいにして、『ボーダーライン』である。『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品である。もちろん『灼熱の魂』レベルを期待して観たわけではないけれど、やっぱりヴィルヌーヴ監督はヴィルヌーヴ監督である。さすがだ。まず何と言っても、映像で語れる、ということ。映画というのは本来そういうものなのだろうけど、それができている作品にお目にかかることは滅多にない。どうしてそう見えるのかわからないのだけれど、何気ない風景のはずなのに、異様な緊張感がある。そして、その後、当然、(衝撃的な)出来事が起こる。小説でも、ほんとにすごい小説家は、何気ない一文で、その後起こる出来事を読者に予知させる(例を挙げろと言われても、すぐには思いつかないのですが)。

ストーリーもちゃんとエンターテインメントになっている。FBIの優秀な女性スタッフ(たぶんSWATの現場のリーダー)が、国防省も関係するある特殊な作戦に抜擢される。それは、メキシコからの麻薬の供給源を押さえるという危険なものだ。直前の作戦でそれに絡む大量の、しかも異様な屍体を目の当たりにし、捜査中に爆発で仲間を殺されたこともあり、正義感(たぶん)から作戦に志願する。

作戦はいわくありげな中年男ふたりが指揮している。特にそのうち一人は、拷問が得意なとってもヤバイやつなのだ。でもサイコでもなんでもなく、作戦を遂行するため、冷静に拷問をする。あくまでも優秀な元検察官。ただ彼は、メキシコの組織のボスに対して、尋常ならざる恨みを持っている(ただその役をしているベニチオ・デル・トロが、ブラッド・ピットと古谷一行を足して2で割ったような顔で、若干集中力がそがれるのが玉に瑕(きず))。

これ以上書くとネタバレになるので書かないが、とにかくその超法規的な作戦に従う女性スタッフは、内なる正義感と超法規的作戦の必要性との間で揺れる。もはや戦場とも言える現場でPTSDになりかかっている。それでもなお果敢に作戦に参加する。そして、ついに作戦の本当の中身を知ることになるのだが……。

世の中って、簡単に善悪を分けられるほど単純じゃないんだよね。それは「大人の都合」とかいう軽薄な言い訳のようなものではなく、何が正しくて、何が正しくないのか、最終的には自分の判断に責任を持つことしかできないということであり、自分の判断が必ずしも受け入れられるわけでもなく、だからといって、反対の判断が必ずしも間違っているとも思えない。世の中や人生というのは、もともとそういう苦いものなのかもしれない。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、愛してます。
I love you, Denis!

※『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』という映画があります。これは本作の続編に当たるらしいですが、ヴィルヌーヴ監督ではないです。観ていないので、どんな映画かは知りません。でも、悪くはなさそう。

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