映画雑観『午後八時の訪問者』

☆☆☆
執筆:2020年8月12日、16日
原題:La Fille inconnue
情報:106分、2016、ベルギー=フランス
鑑賞時期:2020年6月19日
視聴環境:On demand
監督 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
主演 アデル・エネル, オリヴィエ・ボノー, ジェレミー・レニエ
ジャンル ドラマ、サスペンス
言語 フランス語

ほぼ一人でパリ(たぶん)の場末の診療所を切り盛りする若い女性の医者・ジェニー(アデル・エネル)。診療所は怪我をした老医師の代理で預かっているだけで、優秀な彼女は研究所への就職が決まっている。若い男の研修医を一人抱えているが、少々ギクシャクした関係で、ジェニーは彼からナメられていると感じている。ある夜、診療時間を過ぎた午後8時にインターホンが鳴る。研修医が出ようとするが、もう時間をだいぶ過ぎているから取らなくていいとジェニーは言う。

翌朝、診療所に出勤すると警察が待っている。近くで身元不明の少女の死体が見つかり、防犯カメラを見せて欲しいと言う。映像に映っていた午後8時のインターホンの主は、その少女だった。自分が研修医を止めたせいで、少女が殺されたと自責の念に駆られるジェニーは、せめて少女を弔おうと、事件の真相と少女の身元を明らかにしようとする。それぞれに隠し事があったりして、なかなか真実を話そうとしない関係者たち。時には危険な目に遭いながらも真相に近づいていき、その過程で、医師として人間として成長し、自分のあり方を見つめ直す——というストーリー。

サスペンスとしてはこぢんまりとしているが、そこはこの映画の本質ではないだろう。ジェニーに危険が迫るといっても、日常に遭遇しうる危険に毛が生えた程度だ。ではこの映画の本質はなんだろうと考えてみると、医者としてのプライドと責任と多忙さに固くなっていたジェニーの心が、事件を通して、人間として他人(さらには己れ)と対峙することで自分を取り戻して、成長したことではないだろうか。その辺りが、あまり明示的ではなく、成長も少年が男になったとかいう単純で大きな飛躍ではなく、わずかな心の変化がその人の行動に若干影響を与えるという感じで繊細に描かれている。

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督(兄弟らしい)は、カンヌで2度のパルムドールを受賞しているらしい(すみません。存じ上げませんでした)。さすがと思わせるのは、緊張感のある場面・映像と、すべてを語らない語り口でしょうか。そこで観ている側はいろいろと考えさせられます。
また主演のアデル・エネルさんはセザール賞(フランスのアカデミー賞的な権威ある賞らしい。映画は結構観ているけど、この手の知識は乏しいのです)で主演女優賞も取った若手実力派俳優らしいです。映画の最初と最後ではあまり変化がないのだが、実はその微妙な心の変化、成長がしっかり演技できていたのかなと思います。

原題の”La Fille inconnue”は、「不明の(もしくは、無名の)の少女」という意味のようです。意訳すれば、身元不明の少女とでもなるのでしょうか。

公式サイト
映画『午後8時の訪問者』公式サイト
(鑑賞からかなり時間が経ってしまったので、公式サイトを参考にしつつ書きました)

☆☆☆☆☆
5:最高;見るべし。人生の宝になる。
4:優良;見たほうがいい
3:悪くない;見ても損はない
2:いまいち;好みが合えば、悪くない
1:ダメ;時間の無駄。光るところはあってもオススメしない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください