映画『ザ・ロック』
執筆:2020年11月2日
原題:The Rock
情報:1996、アメリカ、135分
鑑賞時期:日本公開時〜現在まで
視聴環境:劇場&DVD
監督 マイケル・ベイ
製作 ドン・シンプソン、ジェリー・ブラッカイマー
主演 ショーン・コネリー、ニコラス・ケイジ、エド・ハリス
ショーン・コネリーが亡くなったらしい(2020年11月1日のニュース)。
007シリーズやインディ・ジョーンズなどが有名な作品なのだろうが、僕はそのころのショーン・コネリーを特に好きではなかった。
でもこの『ザ・ロック』を観て、すごく好きになった。
(注:結構、ネタバレあり。ただし、前半部分まで)
映画の主な舞台は、アメリカ・カリフォルニア州のサン・フランシスコ市にあるアルカトラズ島だ。
同市の沖合に浮かぶその小島は、かつては”ザ・ロック”と呼ばれる脱獄不能な監獄だった。現在は観光地になっている。
ある日、その島をフランク・ハメル中将(エド・ハリス)率いる特殊部隊が占拠し、観光客を人質に立てこもる。
彼らは直前に兵器庫を襲い、ゼリー状のVXガスを搭載した小型ミサイルを入手していた。スプーン一杯で(たしか)7万人ほども殺傷する能力のあるVXガスは、何百万人ものサン・フランシスコ市民を人質にするための武器だった。
ハメル中将は、湾岸戦争で率いていた部隊が敵に襲われ、援軍を強く要請したにも関わらず、ある事情で援軍要請は無視された。その結果、多くの部下を失った。
それは公にできない作戦だったのだ。そのため国は、ハメル中将の度重なる請願にも関わらず、殉死した兵隊たちの葬儀も行わず、遺族にも戦死の理由をきちんと説明せず、遺族年金も支払っていなかった。
人望があり、軍の英雄でもあるハメル中将のこのクーデターは、部下たちの名誉を取り戻し、遺族への補償を勝ち取るための、正義の戦いなのだ。
そんなハメル中将の反乱に驚くとともに、市民を人質に特殊な資金ルートを通して巨額な遺族年金を支払うよう要求された米国政府、国防総省、CIA、FBIのごく限られた要人らは、ハメル中将の作戦を阻止しようと、二つの作戦案を出す。
優先案は、アルカトラズ島に特殊部隊の精鋭を送り込んで、VXガス搭載ミサイルを奪取し、人質を無事救出すること。
もうひとつは、開発中の、VXガスさえ焼き払う高温を発生させるプラズマ爆弾を完成させ、アルカトラズ島の施設そのものを焼き尽くしてしてしまうこと。その場合、すでに人質となっている観光客たちは犠牲となるが、サン・フランシスコ市民は助かることになる。
精鋭部隊を送り込もうにも、占拠されたアルカトラズ島に入るためには、水中から地下を通って潜入するしかない。ところがアルカトラズ監獄は増築が繰り返されていて、迷路のような地下の構造に関する詳しい情報はない。
対策会議の席にいたFBIとCIAの古株が、かつてアルカトラズ監獄から脱獄した唯一の囚人を思い出す。
現在その囚人は秘密裏に地下牢に収容されていて、その生存を知る者は皆無だ。アメリカの極秘情報を知る彼もまた公にできない存在なのだ。
だが、第一の作戦を遂行するためには彼の知識に頼らざるを得ない。
かつてイギリスの諜報員だったその囚人、ジョン・パトリック・メイスン*を演じるのが、ジェームス・ボンド役を何度もやったショーン・コネリーだ。
*John Patrick Mason; 映画ではメイスンと聞こえたので、ここではメイスンと表記します。
ショーン・コネリーは製作総指揮にも名を連ねているから、その設定は冗談ではなく、ある種のトリビュートのようなものなのだろう。
この『ザ・ロック』には、そうした過去の映画に対するトリビュートやリスペクトを感じるシーンがいくつもあって、それもまた楽しい。
一方、潜入できたとしても、恐ろしい化学兵器であるVXガスを処理するためには、化学のスペシャリストが必要となる。そこで白羽の矢が立ったのが、ニコラス・ケイジ演じるFBIのケミカル・スペシャリストであるスタンリー・グッドスピード博士だ。
恋人のカーラから妊娠を知らされ、敬虔なカトリック教徒である彼女から結婚を迫られ——スタンリーはカーラを深く愛しているけれど、まだ結婚までは考えていなかった様子——、それを受け入れ、いいことをしている最中にFBIから緊急招集の電話が入る。
いつもの訓練だと思ったスタンリーは、カーラをサン・フランシスコに呼んでしまう。
刑務所の地下房からFBIの取調室に連れてこられたメイスンは、釈放を条件に作戦への参加を求められる。
メイスンとFBIの現場指揮官であるパクストンとのやりとりを、スタンリーはマジックミラーの向こう側の部屋で聞いている。スタンリーの隣にいるウォーマックFBI長官は、メイスンを非合法的にぶち込んだ張本人だ。
スタンリーは、メイスンが口にする過去の偉人たちがすべて無実の罪の者であることに気づく。でも教養がないFBIの現場の人間にはわからない。
取引に応じないメイスンに対してウォーマックは、スタンリーがメイスンを理解できる可能性を感じ、彼に交渉を担当させる。
スタンリーの教養と自分に対する人間的な扱いにわずかに心を開くと同時に、現場の人間ではないことを読み取ったメイスンは、取引の書類への署名に応じる。同時に、最高級ホテルのスイートルーム、高級スーツなどを要求する。
取引の背後にウォーマックの存在を感じ取ったメイスンは、マジックミラーを破壊し、そこに積年の恨みを持つウォーマックの姿を見る。
スイートルームのテラスで遂にウォーマックと対峙したメイスンは、この取引が無効なことを見抜いていた。
ウォーマックを利用して、部屋に何人もいたFBIの捜査官たちを出し抜いて逃げ出したメイソンをスタンリーが追う。
ホテルの客の民間用に改修された軍用四駆ハムヴィー(HMMWV)で逃げるメイスンを、同じくホテルの客のフェラーリF355でスタンリーが追走するこのカーチェイスシーンは、たぶん『ブリット』(スティーブ・マックーン主演)へのトリビュートなのだと思う。
実はメイスンには、逮捕される直前に恋人が身籠っていた娘がいた。その娘・ジェイドに一目でも会いたいというのが彼のただ一つの生きるための願いであり、希望だったのだ。
同僚を使って娘の存在と住所を調べ出したスタンリーは、呼び出されたジェイドの後を尾行し、メイスンの居所を突き止める。
このメイスンと娘・ジェイドとの再会シーンがなかなか泣かせる。
ジェイドは父親と母親の出会いと、父親が自分が生まれる前に収監されたことくらいしか知らない。犯罪者に過ぎないと思っていた父親は、会ってみるとそれほど悪い人間には見えない。けれども長期の刑をくらっているらしい父親に恐れを感じている。
一方、メイスンは、少しでも娘に良く見てもらいたい一心で、FBIに仕立てのいいスーツを用意させ、伸び放題だった髪の毛も一流のスタイリストにカットさせて、”グランジスタイル”の囚人から、素敵なおじさまに変身していたのだ。
スタンリーの連絡で、けたたましいサイレンの音ともに現場にFBIが到着する。
驚き、怖がるジェイドに、どう説明していいかわからないメイスン。
そこに、隠れて見ていたスタンリーが姿を現し、メイスンに「ジョン」とファーストネームで親しげに呼びかける。
スタンリーは「自分はFBIで、お父さんに捜査の協力をしてもらっている」と誠実な態度でジェイドに説明する。
それに納得したジェイドは父親に対して少しだけ心を許すのだ。
そのことで、メイスンとスタンリーの間にある種の友情が芽生える。
この辺りまでが、映画の前半だ。前半だけで映画1本分以上の面白さがある。
後半は、司令部でVXガスの扱いを指示するだけだと思っていたスタンリーがメイスンとともに最前線に送り込まれ……という展開となる。
編集に少々雑な部分があるのは玉に瑕だけど、エンターテインメント映画として、ほんとにドキドキして観られる映画だ。
日本での劇場公開時に観たけど、あまりに気に入ったのでDVDも購入して、その後、たぶん10回くらい観ている。
この記事もWikipediaを若干参考にはしたけれど、ほぼ記憶だけで書いている(DVDが引越しのダンボール箱の中でまだ出てきていない)。
メイスンとスタンリーとの二人だけの会話の中で、「本当は農夫か詩人になりたかった」というメイスンの台詞がある。
これは実はショーン・コネリーの本音ではないかと僕は思っている。
この映画のショーン・コネリーは、知的で逞しくて冷静で、本当に素敵な男で、僕もこんな歳の取り方をしたいと思ったし、今でも思っている(監獄に入れられるのは御免だけど)。
エンターテインメント映画の好きな方、アクション映画の好きな方、スキッとした終わり方の好きな方、是非、ご鑑賞ください。
超、オススメの映画です。